苦しみからの生還

あるとき暗い表情の、60代前半の女性が来院されました。聞けば、首から上がコチコチに固まって動かないとのことでした。私はお話をうかがいながら、原因を時系列にたどっていきました。すると30年前にすごい追突事故に遭ったとぽつんと言われました。ご本人は時間がだいぶたっているし、それが原因に関係しているとは考えてもいませんでした。

 

ところが、それはこちらにおいとくとしても、またまたおおきな追突事故の被害者になってしまったと話されたのです。そして、今回のひどい症状になるにはさほど時間はかからなかったと言われました。

 

お顔の様子から、苦悶の胸の内が以心伝心でわかりました。いたいほど伝わってきました。それほどつらいのです。

 

私はこれだけのひどい症状の場合、ふつうに判断すれば西洋医学の分野であって民間の施術家は手を出してはいけないなと感じました。

 

しかし、しかしです。患者さんご本人にとっても万策つきてしまったのです。いいと言われる病院あるいは開業医にはかなりの数行ったそうです。でも、私も病気のときにイヤというほど経験しましたが、どこも治療方法は同じだったそうで、心のなかでは「 あぁ、やっぱりここも同じだわぁ 」と瞬時に気持ちがなえてしまったそうです。

 

そんな物語の変遷ののち、冒頭の来院につながったのです。私は覚悟をきめました。今のテクニック、知識を総動員して、とにかく一緒に悩んでみようと決心したのです。

 

10回ほど通われたときです。「やっぱりよくならないから、今日でやめます 」私も万策つきていたのです。しかたがないなぁ---。ただ、この時点でもなぜか一縷(いちる)ののぞみはもっていたのです。

 

心のなかで思いました。「 来ないのはしかたがない。」私は患者さんに言いました。「 自分でできる方法を伝授しますので、あきらめないでください。」

 

私は秘策を授けました。カウンタ-ストレインというテクニックです。この開発秘話も、万策つきたアメリカの治療家が逆転の発想でこの世に誕生させたものです。ちなみに私の頭痛もこれで試してよくなっています。

 

そして、来院されなくなりました。時はたち、約1ヶ月過ぎた頃ご本人がひょっこり現れたのです。顔がイキイキとしていました。聞けば、しばらくは傷心の日々だったそうです。でも、言われたことだけはキチンと守って実行していたのです。そして、ある日をさかいに薄紙をはがすように症状が日に日に好転していったそうです。

 

「 また、通います。」こうなればしめたものです。回を追うごとによくなっていきました。そして、人生もかわりました。なんの変哲もない日々の生活がすべて感謝の対象であると。そうです、生きることが楽しくなったのです。それもふつうに生活することが。

 

私にとってこの患者さんは施術家冥利につきる一生忘れられない患者さんであり、ある意味開眼(かいげん)させていただいた師でもあります。